先天的に備わっている自然免疫、標的を記憶する獲得免疫。免疫の仕組みは二段構えで作られています。
ライフサイクルで大きく変化する免疫は、ウィルスや細菌などの「異物」の影響を受けながら年齢とともに成熟していきます。
しかし、そんな免疫も老化を逃れることはできないのです。
近年の研究では、「免疫と老化」の仕組み、さらにビタミンDは免疫にとって重要な栄養だったことも、わかってきました。
高齢者の感染症が重症化しやすいのは「免疫の老化」
免疫とは自分以外の「異物」から自分の身体を守るシステムです。自分以外のものとは、例えば、細菌やウイルスなどの微生物、がん細胞などがあります。
病気から身体を守り、生体の恒常性(※1)を保つために必要な機能が免疫ですが、免疫には自然免疫と獲得免疫があります。
免疫が老化する理由について理解するために、自然免疫と獲得免疫がチームではたらく仕組みをもう一度、考えてみましょう。
※1 生体の恒常性
ホメオスタシスともいう。身体を環境に適応させて健康に安定させるために、自然に備わっている機能。
「まずは、食べて殺す」自然免疫は防衛の最前線
私たちの身体に先天的に備わっているのが、自然免疫です。自然免疫は病原体を感知して排除する仕組みで、身体の防衛システムの最前線です。自然免疫を担うメンバーの一人、マクロファージは多様性と可塑性(※2)のある細胞です。
ばい菌が身体に入ると、いきなり全身にまわってしまうわけではありません。最初にばい菌が入ってきた傷口に、戦闘態勢のマクロファージが駆けつけるというように、適切な場所で適切にマクロファージが働きます。
マクロファージはひとつで沢山の種類の細菌を見ることができます。しかも、標的の情報を獲得免疫に伝達する伝令の役割も果たしています。無脊椎動物は自然免疫だけで生きていますが、それらの生物は自然免疫系がよく発達しています。
※2 可塑性(かそせい)
力や刺激を加えると変形し、そのままの状態を維持する性質。
「チーム・自然免疫」の主なメンバー
好中球(こうちゅうきゅう)
好中球は白血球の約5割を占めていて、主に身体に侵入してきた病原菌や異物を食べて分解し、殺菌を行うことで感染を防ぐ役割をしています。
マクロファージ
マクロファージは細菌などの異物を食べる能力が高く、食べた細菌を消化・殺菌します。異物を食べたマクロファージは「伝令書」であるサイトカイン(※3)を分泌し、異物の情報をT細胞(ティ—さいぼう・獲得免疫のメンバー)に伝えて、獲得免疫でより強力に防御するよう、免疫機能を活性化します。
※3 サイトカイン
細胞から放出されるたんぱく質の総称。情報伝達物質。マクロファージだけでなく、ほかの免疫細胞も情報を伝達するために分泌する。サイトカインの能力はさまざまで、免疫や炎症に関与する能力を持つサイトカインが多いことが分かっている。
樹状細胞(じゅじょうさいぼう)
マクロファージと同じく、異物の情報をT細胞に伝えることができますが、樹状細胞は「伝える能力」がより高いことがわかっています。
最近の研究により、樹状細胞は複数の細胞集団から構成されていて、各集団がそれぞれ異なった免疫制御機能を持っていることが明らかになりました。
チーム「自然免疫」には不得意分野がある
自然免疫では防衛しきれない敵もいます。
それは、血液中に流れている毒素の分子や小さな病原体、また細胞の中に入り込んだ病原体などです。こういう事態が起こったときには、獲得免疫がそれをカバーします。
「記憶して殺す」第2の防衛システム、獲得免疫
最前線である自然免疫は、手に負えない敵が現れるとリンパ節にある獲得免疫に応援を要請します。自然免疫で対処できなかった場合に発動される、第2の防衛システムが獲得免疫です。
獲得免疫は抗原(標的)を見分けて、それを「記憶」することで同じ病原体に出会ったときに効率的に病原体を排除できるようにする仕組みです。そのため「とりあえず食べて殺す」自然免疫に比べると、免疫が応答するまでの時間が長いのですが、一度病原体を「記憶」すると、その後は効率よく反応することができます。
獲得免疫を利用した分かりやすい例として、予防接種(ワクチン)があります。また、獲得免疫もチームをつくって、ウイルスやがん細胞などの異物を攻撃します。
「チーム・獲得免疫」の主なメンバー
樹状細胞(じゅじょうさいぼう)
異物の情報を伝える能力が高く、T細胞に敵の情報を伝令します。
T細胞
T細胞はメンバーが多くいます。その役割は、
- 1. ウィルスやがん細胞のようなターゲットを攻撃する
- 2. 抗体を作る量を調節する
この2つがあります。
T細胞はリンパ球の一種で、白血球に含まれるリンパ球の60~80%を占めています。一つ一つのT細胞は、特定の抗原(標的)と結合できる受容体を持っています。
マクロファージや樹状細胞などの細胞から、抗原(標的)を提示されると、さまざまな機能を発揮するようになります。
ヘルパーT細胞は、他の免疫細胞に指示を出したり、はたらきを調節する司令塔の役割を果たします。
キラーT細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞の殺傷・排除に関わります。戦い終えたT細胞の一部は「メモリーT細胞」となって、標的の記憶を保存してリンパ節などで長い間生き続けます。
T細胞の種類はほかにもあり、新たなT細胞群が次々に発見されています。最近、免疫を抑制するT細胞が存在することを大阪大学の坂口志文教授が発見し、世界から注目されています。
この免疫を抑制するT細胞は、サイトカインストーム、自己免疫疾患、アレルギーなど免疫応答が引き起こす様々な病気に関わっていることがわかってきています。
B細胞
抗原が体内に侵入してくると、B細胞は抗原(標的)から、そして、同じ抗原を標的とするヘルパーT細胞から、その両方に活性化されて抗体を分泌するようになります。
免疫が上手くはたらいて、体内から抗原が排除されると、B細胞はその記憶をもとに、次に同じ抗原が体内に侵入してきたときに速やかに免疫応答を起こすために備えます。
免疫は経験を重ねて成熟、でもその後は?
お役立ちコラム「免疫と腸内環境」の第3章「大人になって強くなったはずの免疫が弱くなる?」では、20才くらいをピークに免疫力が低下していくことをお話しました。
その理由の一つが腸内細菌の変化なのですが、免疫低下は加齢とも深い関係があることが最近の研究で明らかになってきました。
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若い頃は簡単に治った病気でもなかなか回復しない、あるいは抗生物質を投与しても効き目が悪い、ということが起こってくるのです。
免疫と腸内環境の関係、加齢による腸内環境の悪化などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
病原体に感染し、その内容をメモリー細胞に記憶することによって人の免疫系は成熟していきます。しかし、加齢とともにその機能は低下していき「年をとるとかかりやすい病気」が増えていきます。それはなぜなのでしょうか。
獲得免疫の老化が問題
これまでの研究で、加齢によって落ちていくのは自然免疫系よりも獲得免疫系の方が大きいことがわかってきました。獲得免疫の能力は20代頃がピークで、40代でその半分まで低下するといわれています。
身体の中で最も早く老化してしまう胸腺、そこで作られるT細胞
獲得免疫のメンバー、T細胞は他の血液細胞と同じように骨髄の造血幹細胞から作られます。他の血液細胞がそのまま骨髄で作られていくのに対して、T細胞のもとになる細胞は、骨髄から胸腺(きょうせん・心臓の上にある臓器)に移動して、そこでT細胞となります。
T細胞は胸腺で「自己と非自己」を学んで、その後、的確な指令を出して外敵から体を守るようになります。免疫反応の司令塔であるT細胞は、ひとつひとつは限られた抗原(標的)しか攻撃できないのですが、体内には膨大な数のT細胞があるので全体として、どんな病原体にも対応できているのです。
T細胞を作って育てる胸腺は最も老化の早い器官と言われていて、T細胞を盛んに作っている時期は10代のうちだけで、その後は急速に萎縮していきます。
つまり、人生の最初の10〜20年で一定の量のT細胞を作って、体内のリンパ組織に配備するのです。一定の量が続けて産生されるB細胞、日々入れ替わる好中球など、ほかの免疫細胞と比べて、このようにT細胞は独自の特徴を持っています。
40歳くらいから病原体への応答が弱くなってくる
胸腺が早いうちに老化するので、ある程度年齢が進むと新しいT細胞の供給が減っていきます。そうなると、すでに持っている免疫記憶に頼って、獲得免疫の機能を動かしているような状態になります。
加齢による免疫の変化で多くみられるのが、T細胞の機能低下で、これが中高年から始まる免疫力の低下に大きく関わっていることがわかってきました。
40~50歳あたりから免疫機能の低下が見られるようになり、慢性炎症や自己免疫疾患が増えてきます。75歳を超えると、健常者では感染しない弱い病原菌にも感染してしまう傾向が出てきます。
このような免疫の加齢による変化は、「免疫の老化」と呼ばれ、最近注目されています。
免疫の老化で、身体には何が起こる?
免疫老化には大きく3つの特徴があることがわかっています。
1. 獲得免疫が応答する能力が低下する
獲得免疫応答が低下するというのは、感染源(ウィルスや細菌など)を排除するというはたらきが弱くなってしまうということです。
2. 炎症が起こる原因が増える
身体の中に慢性炎症が起りやすくなるということです。慢性の炎症が続いているあいだ、免疫機能はずっと、これを抑え込むことで状態が悪化しないよう働き続けることになります。
慢性炎症は、がん、動脈硬化、肥満、アルツハイマー病など、多くの病気の発症や進行に関係していることが分かってきています。
3. 自己免疫リスクが増える
自己免疫疾患とは、免疫が自分自身の正常な細胞や組織に対して過剰に反応し、攻撃を加えることにより発症する病気です。
リウマチ、潰瘍性大腸炎、乾癬、円形脱毛症のほか、多くの病気があります。最近の研究で、T細胞の異常が自己免疫疾患に関係していることがわかってきました。
免疫の老化と加齢で起こる病気の関係については、現在、多くの研究が進められています。
初期のコロナ患者にビタミンDの治験投与
近年、ビタミンDは医療分野でキーワードのひとつとなっています。何千本というビタミンDに関する研究論文が、世界中で書かれていて、これまで知られていなかったビタミンDの新たな側面に注目が集まっています。
ビタミンDは免疫の仕組みの中ではたらく大切な酵素の一つ、つまり、免疫において重要な役割を担っている物質であることが多くの研究でわかってきたのです。実際、ヨーロッパやアメリカでは、初期のコロナ患者にビタミンDの治験投与が始まっています。
・約80%のがん患者の血中ビタミンDが不足している。
・エイズ患者の血中ビタミンDが不足している。
・新型コロナが重症化する患者は、血中ビタミンDが低かった。
新型コロナウィルス感染症のニュースでは、サイトカインストームという現象が話題になりました。
これは炎症性のサイトカインが大量に放出されて、炎症が炎症を呼んで止まらなくなり「嵐」のような状態になることです。ウィルスを排除しようとする免疫のはたらきが活性化しすぎて暴走してしまい、身体にとって危険な状況になります。
ビタミンDは、免疫のT細胞にとって不可欠な情報伝達経路のカギとなる重要な成分だといわれています。T細胞は免疫を「調節する」はたらきも持っています。すでに以前から、重度のアレルギー患者にビタミンDが投与されることはよく知られています。
「ビタミンD不足は世界的問題である」とアメリカ国立衛生研究所は指摘していますが、実は、日本人のビタミンD濃度も極めて低いことがわかっていて、厚生労働省は、2018年12月ビタミンD摂取基準値の引き上げを発表しています。
あなたは大丈夫!? ビタミンD不足を引き起こす生活習慣
ビタミンD不足の可能性が高くなるといわれる、5つのチェックポイントです。
- 紫外線対策を日常的にしている
- 10月〜3月の梅雨の時期など、日照量が少ない時期または地域に住んでいる
- 屋外にいる時間が少ない※コロナ禍では特に注意!
- 魚を食べる頻度が低い
- 高齢である。加齢により皮膚でのビタミンD産生能力が低下する
日本で生活している以上、ひとつも該当しない方は少ないでしょう。
日常から意識していても、気候や仕事のスタイルなど自分では変えられない環境もありますので、サプリメントを上手に活用することも考えてみてはいかがでしょうか。